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【海外連載コラム】アメリカ360°動画産業の過去・現在・未来(1)〜撮影技術編〜 - VR Inside

【海外連載コラム】アメリカ360°動画産業の過去・現在・未来(1)〜撮影技術編〜

     

海外メディアRoadtoVRは、アメリカ360°動画産業に関して、ベテラン360°動画制作者Armando Kirwin氏によるコラム記事を掲載した。連載1回目の記事では、360°動画撮影の歴史の振り返りと未来への提言を掲載した。

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コラム記事作者Armando Kirwin氏について

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Armando Kirwin氏は、22本の360°動画制作に関わったベテラン動画制作者である(上の動画参照)。関わった動画制作においては、監督、プロデューサー、エグゼクティブ・プロデューサー等を歴任している。また、同氏が参加したプロジェクトのクライアントには、Facebook等の大手企業も名を連ねている。

同氏が手がけた360°動画のいくつかは高く評価されており、エミー賞4部門ノミネート、カンヌ映画祭で受賞し、トライベッカ映画祭、SXSW、サンダンス映画祭にも作品が招待されている。

360°動画撮影のむかし

ほんの数年前までは、360°動画を撮影しようとすると、まずは360°カメラの自作から開始した。現在のようにハイエンドからローエンドにいたるまでの360°カメラ市場というものが、そもそも存在しなかったのだ。

360°カメラの自作に関する技術的ハードルは、実のところ、さほど高くなかった。というのも、360°カメラ自作に関する知識を有したカメラ・エンジニアが多数いたからだ。むしろ、360°カメラ自作に要するコストのほうが、高いハードルだった。今では想像もできないことだが、数年前にプロ仕様の360°カメラ一式を自作すると数千万ドル(約数十億円)かかるケースもあった。

※ちなみに、邦画で大作と呼ばれる作品の目標興行収入は10億円と言われている。

しかし、360°カメラを用意したとしても、さらに高いハードルが立ちはだかっていた。そのハードルとは「360°動画の合成」である。

プロ仕様の360°カメラは、通常8〜24個程度のカメラを球体状に配置したものとなっている。360°動画を生成するためには、これらの複数のカメラの動画を、同じF値(カメラが感知する光量の単位)、同じ色味でつなぎ合わせる必要があるのだ。そして、今日のように360°動画合成処理を実装したソフトウェアがなかった時代には、VFXアーティストたちが手作業で行っていた

通常の動画は30〜60FPS(1秒間に30〜60コマ)として、そのひとコマすべてに合成処理を実行するとなると、VFXアーティストの作業量が膨大になることは想像に難くない。さらに深刻なのは、画像合成に要する制作費も膨大になることだ。

かつての手作業では、1分の360°動画を制作するのに最終的に$8,000〜$20,000(約¥900,000〜¥2,300,000)のコストがかかった。たった5分の360°動画を制作するために編集だけで、$40,000(¥4,500,000)かかる計算となる。

以上のような撮影事情は、たった数年前の話のだ。逆に言えば、たった数年で、劇的に撮影機材の価格が下落したことになる。

技術革新による360°動画撮影の民主化

左画像はGoogleが開発sita 360°カメラ「Odyssey」、右画像はその後継機種「HALO」。どちらもOptical Flowに対応

左画像はGoogleが開発した360°カメラ「Odyssey」、右画像はその後継機種「HALO」。どちらもOptical Flowに対応

近年になり、こうした360°動画の合成作業に革命が起こった。360°動画合成処理の自動化だ。

実用に耐えうる360°動画自動合成処理を開発したのは、Googleである。同社が開発した自動化手法は「Optical Flow」と呼ばれている。

Optical Flowとは

オプティカルフローとは、撮影した動画の中で物体の動きをベクトルで表す手法である。

同手法の理論的背景には、物体の動きを撮影した動画においては、ある画素の位置移動はあっても色の変化はない、という発想がある。

同手法で実際に使われている画素の位置移動を算出するアルゴリズムには、Lucas-Kanade法、Horn-Schunck法等がある。

同手法を使えば、360°動画の自動合成が可能となる。ただし、熟練したVFXアーティストの手作業に比べると、品質は80〜90%に留まる。360°動画においては、いまだ人間による手作業のほうが高品質なのだ。

しかしながら、この「Optical Flow」のおかげで360°動画制作のコストをかなり抑制することに成功した。

360°動画制作は、今や「不可能なプロジェクト」ではなく、クリエイターの手が届く「冒険的なプロジェクト」になったのだ。

360°動画制作のさらなる「民主化」を目指して

「360°動画合成の自動化」によって民主化された360°動画制作の未来には、懸念材料も存在する。

実のところ、360°動画制作にはVRゲームで使われるUnityやUnreal Engineのような定番のフリーソフトがまだ存在しない

そして、こうした360°動画制作における「定番編集ソフト」は、理想的にはフリーであるべきなのは言うまでもない。

360°動画制作の現場は、VRゲーム開発ほど万人には開かれていない。しかし、360°動画はVRゲームと同等の「民主制」を目指すべきなのだ。

ベテラン360°動画制作者Armando Kirwin氏による360°動画産業に関するコラム記事を掲載したRoadtoVRの記事
http://www.roadtovr.com/360-film-industry-midst-reboot-part-1/

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吉本幸記

Writer: 千葉県在住のフリーライター。ITエンジニアとしてスマホアプリの開発等に携わった後、 フリーライターとして独立。VRをはじめとした最新テクノロジーがもつ社会変革の可能 性に注目している。 http://resume21century.blog.fc2.com