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人や建物を含む都市を3DスキャンとVRで記録・再生する

2017/07/14 16:01

3Dスキャンされた風景

人物を含む環境全体を3DスキャンしてVR化する

VR技術を使えば、PCの前から移動することなく異国の世界遺産や風光明媚な名所を訪れたり、リアルに描かれた架空のキャラクターとコミュニケーションしたりすることが可能だ。

このVR技術と3Dスキャンを組み合わせることで、都市に存在する、あるいは過去に存在していたかこれから作られる予定の建物や、そこに暮らす人達を組み合わせた不思議なVR空間を作り出すこともできる。

『Palimpsest』は単なるVRアートではなく、住民、政府、開発に参加する企業が都市の計画に関する議論を深めるためのツールだ。

『Palimpsest』

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、インタラクティブアーキテクチャラボのデベロッパーが、VRと3Dスキャンという最新の技術を組み合わせて都市を記録するソフトウェアを開発した。

パリンプセストの意味

現在は紙の値段が安く、印刷技術も発達しているので簡単に、低コストで本を作ることができる。しかし、紙がこれほど安価に利用できるようになったのは人類の歴史から考えればつい最近のことだ。

歴史的に見れば紙は貴重なものであり、重要な知識や情報を記録するために大切に利用されてきた。紙が登場する以前にその役割を担ったのは、石板や粘土板、木や竹の板、あるいは羊皮紙といったものだ。

羊皮紙は紀元前から作られていたとも言われる歴史のある道具だが、材料が羊や山羊といった動物の革(なめせば一般的な革製品の材料として使える)であることや作成に手間がかかることもあって高価なものである。

力を持った教会であっても貴重で高価な素材を写本の材料として大量に使うことはできないので、再利用が行われていた。薬品でインクの色を落としたり、磨いて表面を削ったりすることで文字を消し、上から別の内容を記入したのだ。

これがPalimpsest(パリンプセスト)である。一度書かれた内容を消して、上から他の内容が書かれた羊皮紙の写本がパリンプセストと呼ばれる。

丁寧に処理されたパリンプセストの元の内容を人の目で読み取るのは難しいが、特殊なスキャナを使えば復元できることもある。

Palimpsestが残すもの

インタラクティブアーキテクチャラボで開発されたソフトウェアは、再開発などで失われてしまう都市の建築物や、そこに暮らす人々の記録を3Dスキャンによって残すものだ。

パリンプセストの下に隠された内容と同じで、特別な方法(VR)を使えばその場所が持つ過去の記憶を見ることができるという仕組みである。

このプロジェクトでは最初の例として、HS2(High Speed 2/イギリスで計画されている高速鉄道)の計画によって失われてしまう建物やコミュニティを記録した。

重なる都市

失われてしまう環境を記録する

HS2の建設によって失われてしまうものを記録する

過去にあったもの、現在あるもの、これから作られるもの。本来であれば、この3つが同時に存在することはありえない。後者は前者が失われることでその領域を得るものだからだ。

だが、Palimpsestを使うことで複数の状態が重なり合った姿を見ることができるようになる。鉄道の建設によって失われる建物やコミュニティと、そうしたものがなくなった場所に作られる鉄道のイメージを同時に見て回ることも可能になるのだ。

低コストデバイスの使用

高価で高品質な3Dスキャナを使えば、スキャンされたデータは精度の高いものになる。VR空間で再現される都市を、よりリアルなものにすることもできるだろう。

3Dスキャンした建造物のデータを、VRを使ったトレーニングに取り入れている例もある。

長時間作業員が過ごすと多くの放射線を浴びてしまう可能性のある原子炉施設や、トレーニングに使うにはコストがかかってしまう潜水艦での様子をVR空間に再現してトレーニングに利用するために、3Dスキャナが使われている。

これらの例と比べると、Palimpsestの映像はぼんやりしていて影のような存在だ。存在感のある現実の裏に隠れてしまうこのかすかなところも、名前の理由となっているのだろう。

このプロジェクトに安価なデバイスが使われたのは、多くの人が自宅やお気に入りの場所を3Dスキャンできるようにするためだ。手に入れやすい低コストなデバイスを使うことで、一般の人が都市計画の議論に参加するのが容易になる。

スマートフォンによる記録と再生

将来のスマートフォンには、3DスキャナやVRコンテンツを再生する機能が標準搭載されるだろう。そうなれば、日々大量の3Dコンテンツが作成され、消費されるようになるはずだ。

Palimpsestの作成者は、このソフトウェアが都市の消されてしまう側面を保存し、将来その場に現れるものに疑問を投げかけるために有用だと信じている。

スマートフォンで写真を撮影するのと同じくらい気軽に、都市にまつわる思い出を記録し、保存・共有することができるようになるのかもしれない。

 

都市の再開発が行われることで地域経済が活性化し、その都市を訪れる人が増えることはある。だが、同時に消えていってしまうものが存在することも事実だ。

再開発予定地に残っている建物だけでなく、その建物にまつわる思い出や土地に根付いたコミュニティも開発によって失われてしまう。

開発に賛成する、反対するといって自分の意見を主張するだけのデモでは何も変わらない。

それぞれの立場にある人が消えていくもの、作られるものに触れるためのツールとしてVRが活用されるようだ。

 

参照元サイト名:University College London
URL:http://www.interactivearchitecture.org/making-the-palimpsest.html

参照元サイト名:Designboom
URL:http://www.designboom.com/architecture/the-palimpsest-interactive-architecture-lab-ucl-virtual-reality-11-21-2016/

ohiwa


ライター兼システムエンジニア。VR・ARには、「SFっぽい!」というシンプルな理由で興味を持つ。仕事以外ではボードゲームやTRPGで遊び、本を読んで花を育てるアナログ人間。万年筆と着物・和菓子が好き。

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