障害を持つユーザが利用しやすいVRを考えるレポートが公開される
2017/12/07 15:59


車椅子ではVRデバイスを使いにくい
特定の顧客のためにカスタマイズした製品を開発するならばともかく、一般の消費者をターゲットにした製品の開発では購入してくれる可能性がある人が多い市場を狙う。少数のマニアにしか需要がない尖った製品よりも、多数派に受け入れられるベーシックな製品の方が数を売りやすく、大きな売上に繋がりやすいからだ。
VRデバイスやVRコンテンツの開発でも、主なターゲットとなっているのは健康で新しい技術に興味のある消費者である。それは悪いことではないが、結果的に障害を持つ人々がVRデバイスを使いにくくなってしまっている面もあるかもしれない。
障害のある人とVR技術
Disability Visibility ProjectのAlice WongはルーカスフィルムのILMxLabと協力し、障害を持つ人のVR利用に関する調査を行っている。ILMxLabはWongが調査を進めるのを助け、協力者に体験してもらうVRゲームとして『Trials on Tatooine』を提供したという。
この調査には、世界中から79人の身体・精神障害を抱える人々が協力した。協力者の障害の種類は98にも及び、その中で頻繁に名前の挙がる疾患は難聴、関節炎、脊柱側弯症、脳性麻痺、自閉症、喘息、PSTDといったものだ。
この調査からは、障害を抱えるVRユーザが直面する問題やVRデベロッパーが考えるべき内容が見えてくる。
VRの使用を妨げる要素
身体が動かせない
ハイエンドVRヘッドセットは、ユーザの自由な移動を追いかけることのできるトラッキング能力の高さが特徴だ。大きなコストをかけて開発されるVRゲームの多くがルームスケールのVRに対応しており、プレイヤーが広いスペースを使って身体を動かしながらプレイすることを想定している。
だが、全てのプレイヤーが自由に頭と腕を動かせるとは限らない。立ち上がることができない人や、片腕が使えない人もいるのだ。車椅子では移動するために車輪を掴んで回すことになるので、ハンドトラッキングコントローラーを握ったまま移動するのは難しい。
VR技術によってベッドから起き上がることなく海外旅行体験すら可能になるが、コンテンツの設計によってはストレスフルな体験になってしまいそうだ。
ヘッドセットを扱えない
脳性麻痺などで身体を動かすのが難しい協力者の場合、VRヘッドセットを装着するだけでも他の人に助けてもらわなくてはならない。気分を落ち着かせるためのVR映像などを利用したくても、医療スタッフや家族に頼んでヘッドセットの準備をしてもらわないと使うことができないのだ。
症状の重い患者が自分でヘッドセットを扱えるようにするのは難しいが、もう少し簡単に使えるようになれば気軽にリハビリアプリなどを利用できるかもしれない。
強すぎる刺激
一口に障害と言っても、手や足が動かないというものばかりではない。光や音などの刺激に対して非常に敏感で、強い刺激に晒されると頭痛が起きるという協力者もいる。
こうした人々はテレビなどの既存のメディアと同様に、VRの利用も避けている。迫力のある映像を求めると画面の派手な明滅が多くなってしまいがちだが、それが苦手な人も少なくない。
障害とまではいかなくても刺激に対して過敏に反応してしまう傾向がある人はいるので、演出には工夫が必要だろう。
デベロッパーが考えるべきこと
このレポートで指摘されている問題のいくつかは、障害を持つ人に限らずVRユーザ全体に関係する内容だ。VR酔いの発生やパソコンとヘッドセットを結ぶケーブルの煩わしさは、障害の有無と関係がない。
影響範囲の広い問題へはデベロッパーも積極的に対処するだろうし、技術の進歩によって自然と改善されていくと思われるものもある。文字の読みにくさはヘッドセットの解像度が向上すれば改善される。トラッキングの精度が上がれば、ジェスチャによる入力が誤って判定されてしまうことも少なくなるだろう。
だが、中には意識して変えていかなければならないところもある。
代替移動手段
Oculus RiftでもXboxゲームパッドに代わってOculus Touchが標準のコントローラーとなり、VRゲームの操作にハンドトラッキングコントローラーを使うのは一般的なこととなっている。だが、片方または両方の腕に障害があるプレイヤーはハンドトラッキングコントローラーを使うのが難しい。
あるいは、車椅子を使うプレイヤーを考えてみよう。ヘッドセットの高さをトラッキングしているゲームで「しゃがむ」動作を行いたいときはどうすれば良いのだろうか?
キーコンフィグで使いやすいボタン配置を選ぶように、ハンドトラッキングコントローラーの代わりにゲームパッドでVRゲームを操作するというオプションを考える価値はあるのではないだろうか。しゃがみ操作も、どこかのボタンに割り当てれば車椅子で同じゲームがプレイできる。
映像・音声オプションの追加
操作に関わる部分だけでなく、視覚・聴覚に障害を持つ人のためのオプションも重要だ。特定の色を見分けることができない人のための視覚障害者用モードや、左右の音量を個別に調節できる機能はハードウェアを変更しなくてもソフトウェア側で盛り込める。
これらは比較的コストが小さく、対応が簡単な例と言えるだろう。
誰にでも使える技術としてのVR
VRゲームにはハンドトラッキングコントローラーを使った操作やルームスケールでのトラッキングを活用した画期的な作品も多い。そうした作品の良さをそのまま他の操作体系に全て押し込むのは不可能だろう。
だが、必ずしも全てのVRコンテンツがハンドトラッキングコントローラーでしかできないような操作を前提にしているわけではない。多くのコンテンツは、ゲームパッドでの操作に対応することもできるはずだ。ゲームパッドとハンドトラッキングコントローラーの両方に対応させるには余分なコストがかかることになるが、デベロッパーの姿勢を見て高く評価してくれるプレイヤーもいるだろう。
また、身体が不自由な人は健常者以上にVR技術に対する期待が大きいと思われる。インターネット経由でコミュニケーションできるVRプラットフォームや海外旅行を体験できるVR映像などは、彼らにこそ必要なものだ。ハード面・ソフト面の工夫によって、より多くの人がVRを利用できる未来を望みたい。
参照元サイト:Road To VR

VR・AR・MRからVTuberまでXRに関連した最新情報を配信します。