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第二次世界大戦の「ロンドン大空襲」をVR体験できるVRアプリ「Timelooper」にみるVR歴史教育の可能性

2017/06/07 18:27

モバイルVRアプリ「Timelooper」は、ロンドン大空襲といった歴史的出来事を360°動画を使ってリアルに再現するアプリだ。同アプリによって歴史的出来事をリアルに体験したユーザーは、その出来事を自分の記憶の一部にするだろう。

海外メディアMotherboardは、VR教育アプリ「Timelooper」を紹介した。

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「歴史上の出来事」を忠実に再現するTimelooper

第二次世界大戦初期の1940年、イギリスはナチス・ドイツから激しい空襲を受けた。首都ロンドンをはじめとして、マンチェスターやリヴァプールにもドイツの爆撃機は現れ、ロンドンでは地下鉄の構内が避難所となった。この出来事こそ「ロンドン大空襲」(英語では「The Blitz」:ドイツ語で「稲妻」の意味)である。

こうした歴史上の出来事を、まるで「今、ここで」で起こっているかのように体験することはできないだろうか。VRテクノロジーを使えば、できるのではないだろうか。こうした発想のもとに開発・リリースされたモバイルVRアプリが「Timelooper」である。

同アプリをダウンロード後アプリを起動して、VRヘッドセットから360°動画を視聴すると、ユーザーは地球のどこにいても1940年に起きたロンドン大空襲をロンドンのトラファルガー広場でVR体験できるのである(トップ画像参照)。

同アプリを開発したTimelooper社のCEOであるYigit Yigiterによると、ロンドン大空襲を再現する360°動画を制作するにあたっては、残された資料に基づいた厳密な歴史考証を徹底した。具体的には、トラファルガー広場のどこに爆弾が落とされたのか、当時のイギリス兵の制服、さらにはナチス・ドイツ軍の爆撃機まで忠実に再現したのだ。

同アプリはロンドン大空襲だけではなく、1666年に起こった当時のロンドンの家屋の86%が消失したと言われている「ロンドン大火」、さらにはロンドンだけではなくニューヨークの歴史も再現している。ニューヨークを舞台としたコンテンツには、1919年のアメリカ移民局があったエリス島での移民の生活をテーマとしたものがある。

同アプリを開発する根幹となる「VRによって歴史的出来事をリアルに体験する」というアイデアは、360°動画がもつ「共感装置」として働きの応用のひとつと考えられる。「共感装置」としての機能とは、360°動画がユーザーにもたらす「まさに現場に直面している」ような圧倒的な没入感によって、動画が表現している状況に感情移入を促す現象を意味している。

この「共感装置」としての機能のよく知られた応用例は、360°動画の卓越した再現性を報道に使った「イマーシブ・ジャーナリズム」である。この応用事例に関しては、本メディアでも以前にまとめて掲載したことがあるが、その多くはシリア難民の惨状を伝えるというような「シリアスな」内容である。

360°動画を使って歴史的出来事に「共感」するのは、歴史教育の観点から見ると非常に有意義なように思われる。というのも、視聴者が歴史的出来事に共感できれば、その歴史的出来事は視聴者の「記憶」の一部となるであろうからである。

もっとも、360°動画による歴史的出来事の追体験には注意点がある。Yigit Yigiter氏によると、古代ローマの都市のような今は失われている歴史的光景の再現には、どんなに忠実に歴史考証しても、作り手の解釈が入ってしまうのだ。それゆえ、現在から隔たった歴史的出来事の追体験ほど「ひとつの解釈」に過ぎないと思い、鵜呑みにしない批評的精神が不可欠なのである。

「失われた過去」をも蘇らせるVR

以上のようなVRによる歴史の再現は、Timelooperのほかにも事例がある。

AFP通信は、昨年10月、第二次世界大戦中に起こったユダヤ人迫害の現場となったアウシュビッツ収容所をVRで再現した事例を紹介した。

同コンテンツを開発したのはドイツ・バイエルン州刑事局のRalf Breker氏なのだが、同コンテンツ開発の目的は歴史的出来事に対する共感ではなく、現在でも捜査が続いてるナチス戦犯を裁くためだ。

ナチス戦犯を裁くときに問題となるのは、人々がガス室に送られたり射殺されたりしていたことを容疑者が知っていたのかという点であり、容疑者に対しこの点を追及する際に、同コンテンツは威力を発揮するのだ。

なお、ドイツメディアRuptly TVは同コンテンツを紹介する動画をYouTubeにアップしている。

以上のように、360°動画にはリアルな体験を可能とすることのほかにも、ヒトの心に訴えかけたり、場合によってはヒトの内面を暴くチカラがあるのだ。このチカラは非常に強力なので、360°動画に関する「メディア・リテラシー」の整備が求められるだろう。

VR教育アプリ「Timelooper」を紹介した海外メディアMotherboardの記事
https://motherboard.vice.com/en_us/article/with-vr-history-you-can-hear-the-bombs-drop-in-trafalgar-square

iOS版Timelooperダウンロードページ
https://itunes.apple.com/jp/app/timelooper/id1017923978?mt=8

Android版Timelooperダウンロードページ
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.timelooperinc&hl=ja

吉本幸記


千葉県在住のフリーライター。ITエンジニアとしてスマホアプリの開発等に携わった後、 フリーライターとして独立。VRをはじめとした最新テクノロジーがもつ社会変革の可能 性に注目している。 http://resume21century.blog.fc2.com

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