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MIPTVで注目!テレビ・映像業界がVRに期待している

2017/04/10 18:41

    Gear VRを付けた女性

    VRヘッドセットが一般の消費者にとっても手に入れやすいものになり、メジャーなゲームや映画シリーズのVRバージョンも発売されるようになっている。

    特に注目が集まったのはやはり『バイオハザード7』だろうか。一人称視点のホラーゲームというジャンルと相性が良かったこともあり、PSVRで(もちろんPS4バージョンも)大きな話題となったタイトルだ。本編だけでなく、DLCメイキング映像の記事もよく読まれていた。

    VRゲームも素晴らしいのだが、VR映像を視聴するユーザも多い。頭を動かすことで見える風景が変わるVR映像は、従来のテレビやYouTubeの映像とは一線を画す存在だ。ドキュメンタリー映像でもエンターテイメント作品でも、視聴者を現場に連れていくその没入感は大きな魅力になる。

    そんなVR映像に対してはテレビ業界のプロも興味津々らしい。毎年4月にカンヌで開催される国際映像見本市MIPTVでも、VRはテレビ番組のプロデューサーや放送局にとって重大なテーマだった。

    テレビとVRの今

    テレビ番組でVR

    ときにはテレビのニュースでVR関連のニュースが紹介されたり、バラエティ番組で出演者がVRを体験する様子が見られることもある。アメリカでは昨年の末、人気テレビ番組でVRを使ったコーナーも始まった。

    テレビがVRを取り入れるこうした動きがある一方で、VRが次のマスメディアになると強気の主張をする人物もいる。HTCのRikard Steiberはキーノートで語った。

    「我々は誰もが大きな影響力を持つことになるでしょう。VRには誰でも、どこからでも参加できて、どこにでも行くことができ、何を作成するのも自由です。

    私たちが今見ているのは技術が可能にすることのほんの一端でしかありません。VRは新しいコンピューティングプラットフォームであり、次世代のマスメディアになるでしょう」

    VR vs 動画共有サイト

    「誰もがコンテンツの発信者になれる」というVRと似た特徴を持つインターネット上での動画共有サイトは、大人気だ。だが、VRが次のマスメディアになるというSteiberの主張を真剣に受け止める人はまだ少ない。

    一方で、VRよりも早くテレビ業界との関係を築きつつあるのがインターネットでの動画配信サービスだ。若者がテレビ番組を見る代わりにYouTubeやSnapchat、あるいはInstagramで動画を見るようになっている。

    NetflixやHBOとの提携は、若者のテレビ離れに対するテレビ業界のトレンドとなっている。動画配信サービス以外で若者にアプローチする方法として、ヘッドセットメーカーはVRを提案している。

    ただし、少なくとも2017年の現時点でVRはそれらのインターネット上の動画共有サイトに比べて非常にマイナーな存在だ。これは視聴者数を比べてみればすぐに分かるだろう。

    YouTubeには、毎月10億人以上がアクセスする。Instagramも同じく6億以上のアクセスを集めているし、毎日1億5,800万人がSnapchatを利用している。

    これに比べれば、VRのユーザは少ない。機器の台数だけで見ても、VRヘッドセットは全世界で合計2,000万台程度(有線接続を必要とするハイエンドヘッドセットに限れば200万台以下)しか販売されていない。

    まだVR機器を揃えているユーザは少ないが、将来的にはこの数が拡大を続けると予想されている。2021年にはVRコンテンツにユーザが費やす年間金額が90億ドルにもなると言われており、テレビ番組のプロデューサーやテレビ局がVRに興味を持つのは自然なことである。

    フォーマットとしてのVR

    攻殻機動隊のワンシーン

    VRコンテンツは発展途上

    これまでのVRコンテンツは、多くがゲームかインタラクティブ性を持たない動画(視聴者が操作するわけではない、普通の360度動画)だった。これは従来のテレビゲームやテレビ番組と近く、VRならではの独自性が薄いコンテンツだ。

    この状況はラジオのやり方を踏襲していた初期のテレビや、演劇をそのまま映像にしただけだった初期の映画と似ている。テレビがラジオとは異なる特徴を持つメディアに成長したように、映画が演劇とは違う味わいのある芸術に進化したように、VRもオリジナルの形を獲得していくかもしれない。

    独自性の重要さ

    Google DaydreamチームのGreg Ivanovは、MIPTVのパネルセッションでVRが独自性を獲得することの重要さを述べた。

    「優れたVRというのは、VR独自のユニークなものです。『当たり前のことを言っている』と思われるかもしれませんが、それが大切なことなのです。VRの方が良いか、あるいはVRのみでなければなりません。

    多くのメディア企業は既存のカードを持ってVRの世界に入ります。それは入り口として有効ですが、VRが目指す究極のゴールとは異なります」

    普通の映画やゲームと同じものをVRヘッドセットで見られるようにするのではなく、VRの特徴を活かしてVRでしか見られない(あるいは、VRで見る価値がある)コンテンツを作ること。Ivanovの言っていることは確かに誰でも知っているように聞こえるが、忘れがちなポイントでもある。

    既に成功しているタイトルやキャラクターを使った続編をVRで作る場合には特に、意識・無意識を問わず変化を避けがちになってしまう。既存のファンを満足させることは重要だが、VR化した意味がないような作品にならないように一層注意する必要があることも事実だ。

    360度カメラよりもゲームエンジンを学べ

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    イギリスの映像会社Virtual Umbrellaのマネージングディレクター、Bertie Millisによれば、MIPTVで複数の発言者が「映像会社は学ぶべき」だと進めたものがあるという。それはゲームエンジンだ。

    高価な360度カメラの使い方を覚えるよりも、『グランド・セフト・オート』や『コールオブデューティー』に使われるようなゲームエンジンを学ぶべきだという提案がなされたという。

    360度カメラは高い解像度の映像を撮影するために重要なデバイスだが、それだけではテレビや映画の発展系としての360度映像しか作れない。インタラクティブ性の高いVR映像を作るために、ゲームエンジンの技術が注目を集めているようだ。

    特筆すべきは、このMIPTVがゲームではなく映像のイベントであることだろう。映像見本市でゲームエンジンの可能性が語られるようになっているのである。

    Sky's VR Studioのクリエイティブディレクター、Richard Nocklesもインタラクティブ性の高い作品を作ることを考えているようだ。

    「今年の個人的目標は、インタラクティブ性に取り組むことです。ゲームエンジンは、未来そのものです」

    VR映画のコツは演劇人が知っている?

    アサシンクリードのワンシーン

    PSVRを開発したソニーのチームに所属するSimon Bensonは、VR映像は映画よりもむしろ演劇に近い性質があると指摘する。VR映像ならではこの特徴はVR映像のクリエイターを、ときにベテランの映画監督をも悩ませている。

    「VR映像は、映画よりも演劇に似ています。ただし、とても奇妙な劇場です。観客はたった一人なのですから。

    VR映像が演劇に似ているのは、観客が舞台のどこを見ているかが分からない点です。特定の要素だけに注目させることはできません」

    VR映像では、ズームのような映像編集の技法によってユーザが注目する要素を固定することができない。特に多くのキャラクターが登場するシーンでは、それぞれのユーザが自分の好きなキャラクターの方を向いてしまうだろう。

    従来の映画のように淡々とストーリーを進めてしまえば、観客の真後ろで重要な出来事が過ぎ去ってしまうかもしれない。

    現在のVR映像では、ユーザが特定の場所を見ていないとイベントが発生しないようにしたり、光や音によってユーザの注意を引くような工夫をしているものもある。キャラクター視点で作品を作るのも解決策だが、主人公格にしてしまうのも問題だという。

    彼らが、作り手の望むように物語を進めてくれるとは限らないからだ。むしろユーザはサブキャラクターの立場して、別のキャラクターにストーリーを引っ張ってもらうと上手くいきやすい。バットマンよりもロビン、ハン・ソロよりもチューバッカの視点が有効だ。

    RewindのSolomon Rogersは、最高のVR映像ディレクターには、演劇畑の人間が複数いるという。彼らは多くの人物を同時に動かす場合の扱いや、動きの付け方といった要素を理解している。

    攻殻機動隊の360度動画を公開したばかりのRewindからこういうコメントが出てくるということは、実際に360度動画を撮影する現場で演劇の経験や知識が役に立っているのだろう。

    VR企業とコンテンツ企業の関係

    お願いする男性

    テレビ局はVRに興味を持ってはいるが、同時に慎重でもある。その理由は、過去に成功例が無いことだ。2016年を通して、VR映像で大きな利益を得た企業はほとんどない。

    リスクの大きさがVRへの参入を躊躇させる要因となってしまっている。この状況を改善するために、彼らがVRヘッドセットメーカーやVR技術関連企業に求めているのはVRユーザを増やすことだ。

    今よりも多くのユーザがVRヘッドセットを使うようになれば、コンテンツの販売で制作コストを回収できる可能性は高くなり、参入の障壁が下がる。

    VR体験の品質を底上げ

    この点でVR産業が警戒しなければならないのが、VRに対して悪い印象を抱かせてしまう低クオリティのVR機器だ。スマートフォンを使用したモバイルVRヘッドセット、あるいは小型のスクリーンを内蔵した格安のVRヘッドセットでの体験で、ユーザがVRに見切りを付けることは十分考えられる。

    一度体験してVRを離れたユーザを再び振り向かせるのは難しいため、業界全体として取り組んでいかなければならない問題だ。

    低価格でも品質の安定したヘッドセットの開発や、優れたVRコンテンツの作成(未完成・低品質なVRコンテンツのフィルタも?)が求められる。

    成長のループに突入するために

    ユーザはクオリティの高いコンテンツを求め、コンテンツを提供する企業はユーザ数を求める。そして双方からヘッドセットの価格が問題視される。

    VR機器メーカーは板挟みで辛い立場だが、ここが踏ん張りどころだ。人気のコンテンツを持つ企業と協力体制を築ければ、VRヘッドセットの普及に弾みが付く。ユーザが増えればVRコンテンツを作りたい企業も増え、成長が加速していくだろう。

    ループの始まりがどこからになるかは分からないが、テレビ局や制作会社を口説き落とすというのも一案ではないだろうか。

     

    参照元サイト名:The Guardian
    URL:https://www.theguardian.com/technology/2017/apr/09/virtual-reality-is-it-the-future-of-television

    ohiwa


    ライター兼システムエンジニア。VR・ARには、「SFっぽい!」というシンプルな理由で興味を持つ。仕事以外ではボードゲームやTRPGで遊び、本を読んで花を育てるアナログ人間。万年筆と着物・和菓子が好き。

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