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VRによるメンタルヘルス・マネジメントの研究が進む

2017/04/14 18:32

VRとメンタルヘルスの関係を扱った研究は、既に発表されたものだけでも300件近い。多くが不安症や恐怖症を扱っており、ポジティブな結果が得られている。他にも依存症の治療や痛みの軽減、自己肯定感の改善といった変化が見られるという報告もあり、VRを用いた治療に期待が持てる。

VRヘッドセットを付けた人たちのイラスト

VRゲームやVR映画といったエンターテイメント以外では、医療にVRを活用する事例が多く見られる。VR機器の使用(特に長時間の使用)が疲れ目を招くことは確実だが、適切なコンテンツを節度を持って使用すればデメリットを補って余りある効果が期待できるようだ。

VRを用いたフィットネスマシンリハビリプログラムの開発も進んでいる。実際にVRゲームで大きなダイエットに成功した男性もいるので、結局のところはきちんと継続して取り組めるかどうかがポイントなのだろう。モチベーションの維持に繋がるならば、VRを運動に取り入れる意味はあるようだ。

肉体改造にVRを使うのも良いが、特に高い成果を挙げているのはVRを精神的な落ち込みや不安への対処に用いた研究である。これらの研究は、多くが曝露療法の考え方に基いている。

環境を変えるという治療法

VRヘッドセットを付けた女性

ストレスに弱いから精神状態が悪くなるのか、精神状態が良くないからストレスを受けやすいのか?

なんだか哲学的な問いのようだが、ある出来事をどう感じるかは人それぞれで異なる。次々とやってくる仕事を楽しめる人もいれば、苦手な人と少し話すだけで体調を崩してしまう人もいるのだ。

こうした反応の差には、遺伝的な違いや経験・知識が関わっているという。神経伝達物質の分泌量やその受容体レベルといった遺伝による要素は大きく変えられないが、「理論的には」周囲の環境を変えることは可能だ。

リアルに環境を変える難しさ

とはいえ、実際に周囲の環境を変えるのは難しい。メンタルヘルスに悪影響を与えている事柄や相手によっては、縁を切るために転職や引っ越しが必要になるだろう。場合によっては、家族との関係を見直さなくてはならないかもしれない。

苦手な場面に徐々に慣れていく治療も存在するが、こちらも実行するのは難しい。もし失敗すれば一気に「苦手度」が上がってしまうことも考えられるし、そもそも反復するのが困難だったりもする。

人混みが苦手な人が通勤電車に一駅、二駅乗るところから慣れることはできる。だが、雷や火事のような災害を狙って体験させるのはほとんど不可能だ。

VRの登場

ここでVRが登場する。VRでトラブルの原因そのものを取り除くことはできないが、どんな場所にでも患者を自由に連れていけるのがVRの強みだ。

日常生活のストレスで精神的に不安定になっている患者には、瞑想やリラックスを目的としたコンテンツが用意されている。VRコンテンツでリラックスすることで、傷や病気による痛みすらも軽減できるという結果もある。

特定の恐怖症や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を抱える患者には、VRで苦手とする対象に慣れる方法も有効だと言われている。リアルな曝露療法とは異なり、VRならば再現が難しい状況もシミュレーションすることが可能だ。

どうしても耐えられないときにはヘッドセットを外してしまうという緊急避難の方法もあるので、リアルな曝露療法よりも安心である。

VR治療の効果

VRで蜘蛛や飛行機、火災の恐怖を克服する

VRを用いてメンタルヘルスの問題に対処した多くの研究では、有望な結果が出ている。また、研究に携わった研究者たちはその結果を特に驚くべきものとは感じていないという。

現時点でも、VRでの体験は現実の体験をシミュレーションしたものとして十分に有効だ。今後VR体験がリアルになればなるほど、その効果も強くなっていくと思われる。

これまでに行われた研究で対象となった精神や感情に関連する疾患・症状には次のようなものがある。

・自閉症

・摂食障害と肥満

・薬物やアルコールの乱用

・痛みの軽減、特に火傷による痛みの軽減

・人前に出ることやスピーチに対する恐怖を含む、恐怖症

・PTSD

・禁煙(ニコチン依存症)

・脳血管障害のリハビリ

・吃音

VR治療が「効く」理由

VR体験が上記のような患者の症状を改善する結果をもたらすメカニズムは複数あると思われる。実験に使われているコンテンツも研究によって異なるので、それぞれの効果は別に考えなくてはならない。

VRコンテンツによってリラックスできることで、そのままストレスからの解放に繋がることもあるだろう。自閉症や吃音の安定、あるいは禁煙の補助としてVRを用いる場合はこちらの影響が大きそうだ。

だが、自分が苦手とする状況をVRで繰り返しシミュレーションすることで、慣れることができたパターンもあるだろう。スピーチ恐怖症やPTSDの改善にはこちらの効果が大きいのはないかと考えられる。

もう一つ指摘されているのが、ゲームの世界でプレイヤーが活躍することによる影響だ。特に治療効果を狙って設計されたコンテンツでなくても、『Harvard Heart Letter』誌の2012年3月号に掲載された研究では、調査時に人気のあったゲームでその効果が確認されている。

アメリカの心臓協会によれば、身体の動きと感情の動きを伴うテレビゲームはプレイヤーの自尊心や自己効力感を改善させ、社会支援が促進され、健康状態が改善するという。もちろん遊び方にもよるが、VRに限らず一般的なテレビゲームでもこういった効果が得られることがあるようだ。

仲間と一緒に世界を救ったり、命がけで危機的状況を切り抜けたりといった非日常の体験がプレイヤーを強くするのかもしれない。VRゲームは高い没入感を特徴としているため、このような効果もより強く現れることになりそうだ。

これまでの研究

VRとメンタルヘルスに関する研究は、これまでに285件が公表されている。

そのほとんどは不安障害や恐怖症、中でも社会不安障害とPTSDの治療におけるVRの利用に着目したものだ。その結果は希望が持てるものとなっている。

VRはアルコールやニコチンの依存状態にある患者の欲求を管理する手段として効果的であり、他のメンタルヘルスの問題に対してもその場しのぎでない治療効果を迅速に発揮することが証明されている。

うつ病への適応を調べる研究も2例存在し、さらに多くの研究が行われることが期待されている。

 

不安障害や恐怖症の治療にVRでのシミュレーションとトレーニングが有効なことは、想像に難くない。VR Fitness Insiderの記事で例として挙げられている飛行機恐怖症などは、繰り返し飛行機に乗るシミュレーションをしていれば多少なりとも改善されるのではないだろうか。

研究が続いているうつ病への適応も有望だ。将来的には投薬よりもマイルドな治療法として確立され、家庭用のVRヘッドセットで予防的に利用することもできるようになるだろう。

VRが精神疾患に悩む患者の増加に歯止めをかけるときが来るかもしれない。

一方で、禁煙や摂食障害に対してもVRが効果的だというのはやや意外な結果だ。吸いたい、食べたいといった欲求をVRコンテンツを楽しむことで紛らわせたり、リラックスすることで我慢できたりといった効果があるのだろうか?

肥満にも有効らしいので、VRで食欲に打ち克つ強い精神を育て、VRでカロリーも消費するVRダイエットプログラムなども流行しそうである。

 

参照元サイト名:VR Fitness Insider
URL:http://www.vrfitnessinsider.com/virtual-reality-offers-effective-treatment-mental-health-issues/

     

     

ohiwa


ライター兼システムエンジニア。VR・ARには、「SFっぽい!」というシンプルな理由で興味を持つ。仕事以外ではボードゲームやTRPGで遊び、本を読んで花を育てるアナログ人間。万年筆と着物・和菓子が好き。