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VRを使った研究が超高層ビルの人間に与えるストレスを解明する

新宿のビル群

超高層ビルが人々にストレスを与えている

都市計画では、しばしば「都市の緑化」が話題になる。公園を取り入れたり街路樹を増やしたり、最近ではビルの屋上や壁面に植物を植えることで行われる緑化もある。こうして植えられた植物には、ヒートアイランド現象の緩和や都市で暮らす人々のストレスを緩和することが期待される。

ストレスを数値化するのは難しいが、VR技術がそれを可能にする。人工的な高層ビルに囲まれた都市で過ごすことで、人間にはストレス反応が引き起こされるという。

このストレス状態が長く続けば、心臓への負担増が心臓病を増やすなど健康への悪影響すら考えられる。最新技術を使った研究の結果を受けて、都市計画を見直すべきときが来ているのかもしれない。

都市生活が病気に繋がる?

カプセルに入った薬

強力な薬の登場も大きい

一般に、発展途上の国々よりも先進国の方が平均寿命は長い。経済が発展した国ほど衛生的な都市が多く、栄養状態や受けられる医療も改善するために平均寿命が長くなるのだ。特に豊富な栄養と充実した医療によって乳幼児の死亡率が下がると、平均は大きく伸びることになる。

だが、中にはむしろ先進国で増えている病もある。中でも心臓・脳・血管の障害や精神的な病には、自然の乏しい都市で暮らしているストレスも関係しているのかもしれない。

都会で暮らす人と田舎で暮らす人を単純に比較するのは、異なる点が多すぎて難しい。頻繁に利用する交通手段も、気候も、食べ物も異なる。

しかし、VRを使えば「都市空間で過ごすこと」そのものが人間にどのような影響を与えるのかを知ることが可能だ。

巨大ビルは人間にストレスを与える

VR視聴中にストレス反応を測定する

VR視聴中にストレス反応を測定する

カナダ、ウォータールー大学のRobin Mazumderは、VRを使って超高層ビルが人間にどのような反応を引き起こすのかを調査している。

超高層ビルを訪れても、あるいはタワーマンションに住んでもそのことが直ちに心臓発作を引き起こすというわけではない。だが、Mazumderの説が正しければ長期に渡って高層ビルに囲まれた都会での生活を続けると慢性的なストレスによってその可能性を高めることになる。

実験の内容

Mazumderが昨年行った実験では、25人の被験者が対象となった。彼らの反応に予備知識や偏見が影響することを避けて自然な結果を得るため、被験者にはMazumderが何を研究しているのかは伝えられなかったという。

被験者は、VRヘッドセットを使って4つの映像を見せられた。

1つめは40階建てのビルに囲まれる映像だ。映像は全体が建物の灰色に囲まれてしまい、暗いという。2つめの映像でも被験者の周囲には灰色の建物が並ぶが、先の映像とは異なり2階建てだ。

他の2つの映像は、それぞれの映像を見た後に被験者の精神状態を落ち着けるためのものだ。ビルではなく、並木道の映像だという。

この実験では、1つめの映像を見ているときに血圧が高くなる(ストレスを感じていることを示す)傾向が出たという。

都市と健康に関する研究

シンガポールのビル群

高層ビルの並ぶ夜景(シンガポール)

 

VRを用いた実験を行うMazumder以外にも、都市での暮らしが人間の健康に悪影響を及ぼす可能性を示唆する研究結果が出ている。

都市の緑化度が死亡率を減少させる

今年10月にランセット誌で発表された研究によると、緑化の進んでいる都市ほど死亡率が低くなる傾向があるという。

この調査はカナダの30の都市を対象にして行われたものだ。対象となる地域が広いことで緑化度合い以外の要素(性別、年齢層、収入の多寡による受けられる医療の違いなど)も含まれてしまうが、緑化された空間が死亡リスクを8%から12%抑制することが分かったという。

都市で生まれ育つと精神疾患にかかりやすい

少し古い研究になるが、2012年に発表された論文では都市で育つと統合失調症を発症する確率が2倍以上になるという調査結果が出ている。

2015年に発表された論文でも、一部の知的障害(おそらく先天性のもの?)を除けば都市で生まれた子供の方が精神疾患を発症する確率が高いと結論付けている。

即時の反応を調査できるVRの有効性

高層ビルには土地を節約できるメリットがあり、車中心の社会は人やものが移動できる範囲を大きく広げた。経済発展には寄与しているが、不健康でもある。過去の研究結果を見ても、現在の都市が人間の健康に良いものだとは言えないようだ。

医療費の増大や幸福度の低下を防ぐには、高層ビルだらけの都市を見直す必要があるのかもしれない。VRを使ったMazumderの研究がこれまでの研究に比べて優れているのは、その場で反応を調査できるところだ。計画中の都市をVR空間に再現して被験者に体験してもらえば、その都市がストレスを感じさせないものになっているのかを確かめることができる。

 

参照元サイト:Motherboard


ライター兼システムエンジニア。VR・ARには、「SFっぽい!」というシンプルな理由で興味を持つ。仕事以外ではボードゲームやTRPGで遊び、本を読んで花を育てるアナログ人間。万年筆と着物・和菓子が好き。

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