VRコンテンツで斜視の大人が視力を回復できる?
バーチャル空間に作りあげられたもう一つの現実を体験できるVR技術。
VRゴーグルやコンテンツも豊富に登場し、身近で楽しいテクノロジーとなっています。
しかし、VRは目に大きな負担を与え、斜視といった悪影響を及ぼすとも言われています。
そこで、ここではVRが斜視の原因ではないかという見解と、逆にVRを使って斜視を治療しようとする取り組みについてまとめました。
VRをやると斜視になる?
VRは外界から視覚を遮断するヘッドセットを被り、ディスプレイを見ることで高い没入感を得られます。
そのため、目、視力に対する影響も大きいと指摘されています。
特に、
「VRをやると斜視になりやすくなる」
と懸念されています。
斜視とは片目は正しい方向を向いているのにもう片方の目が内側や外側など別方向を向いていて、正しい空間認知や立体視ができなくなる状態です。
7歳までの児童はNG。12歳までも要注意
6、7歳までは目の使い方を体が覚え、視覚が発達し確立していく時期です。
この時期に通常とは違う立体視を行うVRを利用すると目から得た情報を脳へ伝達する回路に異常が発生しやすく、7歳まではVRの利用は斜視になる危険性が大きいといわれています。
とはいえ、7歳を超えればVRを普通に利用しても良いというわけではありません。
瞳孔間距離による空間認知が安定するのが12、13歳頃と言われており、視覚が発達・確立していく時期であることは変わらないためです。
そして、この時期に瞳孔間距離による空間認知を錯覚させるVRを利用すると、空間認知に悪影響を及ぼし斜視になるリスクがあるとされています。
実際に国内で発表された症例としては、赤緑式の3D動画を見た4歳の児童が斜視になったという事例がありますが、幸いにも手術により治癒したとのことです。
完全にVRが斜視を引き起こすと証明されているわけではありませんが、児童の視覚が発達する期間に刺激が強いVRは避けるべきでしょう。
Oculusも対象年齢は13歳からに設定
児童のVR利用についてはVR企業も対応するようにしています。
VR大手のOculusもVRゴーグル利用の対象年齢を13歳からと設定しています。
VRゴーグルの利用に必要なOculusアカウント(Facebookアカウント)も規約上13歳未満の児童は作成できません。
Oculus以外のVR企業も対象年齢を13歳からとしている場合が多いようです。
また、最近では任天堂の「Nintendo Labo VR Kit」のように眼科・視覚研究の専門家の監修を受け、7歳以上であれば利用できるVRデバイスも登場しています。
お子さんがいる場合にはVRゴーグルを購入する前に、必ず対象年齢を確認しておきましょう。
一眼タイプのVRゴーグルなら児童でも利用可
画像:ハコトリップ1眼タイプ
では、子供はVRを体験することはできないのでしょうか。
全く体験できないというわけではなく、児童でも利用できるVRゴーグルもあります。
発達途中の児童にとって影響が大きくNGとされているのは、主に2眼タイプのVRゴーグルです。
他方、1眼タイプのVRゴーグルであれば児童でも利用できるという説があります。
両目で同じ視線で映像を見る1眼タイプは当然2眼タイプよりも没入感や臨場感は乏しくなりますが、目に対する負担もその分軽減されるためです。
段ボールを使ったスマホ用VRゴーグル「ハコトリップ」には、児童でもVRを楽しめるように1眼タイプが用意されています。
VRが斜視の治療に役立つ?
画像:Vivid Vision クリニック用(https://www.seevividly.com/)
ここまで
「VRが斜視の原因ではないか」
という見解を中心に紹介してきましたが、その一方でVRが視覚に与える影響を利用して
「斜視の治療に応用できるのではないか」
という視点からの研究も進んでいます。
米国のスタートアップ企業「Vivid Vision」は2015年からVRを使った斜視・弱視の治療用製品を全米の眼科クリニックに提供しており、家庭でも利用できる「Vivid Vision Home」も開発しています。
同社の創立者兼CEOの起業家James Blaha氏は自身の弱視を治療するためのVRゲームを開発して、これを眼科医療に活用すべく「Vivid Vision」を立ち上げました。
「Vivid Vision」は左右の目に異なる映像を見せるというVRの特徴を斜視治療に活用するものです。
まず、人間には利き手があるように、より良く見える「利き目」があります。
斜視の人が視力も弱くなってしまうのは、左右の目を強調させるのが難しく利き目とそうでない目の差が大きいためです。
そこで「Vivid Vision」はVRによって利き目の側への刺激を徐々に少なくし、普段はあまり使っていない目を積極的に使うように患者を訓練していきます。
これまでも片目を隠したり、片目の視界をぼやけさせることで他方の目を使わせる治療などがありましたが、VRゲームを使うことでモチベーションを保ったまま治療を続けることが可能です。
現在では全米の他EUやアジアなどの387の眼科クリニックでVivid Visionが斜視治療に使われるようになっています。
まとめ
架空の現実を体験できるVRは非常に魅力的ですが、目に大きな負担がかかるため注意が必要です。
視力に対する影響はもちろん、両目に違う映像を見せるというVRの特性上斜視になる危険性があります。
そのため、児童はもちろん大人もVRを利用する際には、休憩をとって長時間の連続使用を避けるなど大きな注意を払わなければなりません。
また、VRの特性を逆に活用した斜視治療への取り組みも注目です。
いまだ研究途上といったところですが、VRを使った斜視治療法が確立すれば眼科医療が大きく進歩することが期待されます。
自宅にいながらVRを使って斜視の治療や視力回復をすることが当然のことになる日が来るかもしれません。
いずれにしても、視覚とVRとの関係は切っても切れないものなので、この分野の研究が進むことによってVR自体が発展していくことを期待したいですね。
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